テレビ朝日系列 スイスぺ! 藤岡弘、探検シリーズ回想録 Vol.4

「藤岡弘、探検シリーズ第5弾 アマゾン奥地6000km 密林の恐怖、イプピアーラ大追跡!これが半漁人伝説の正体だ!」

未知への探検心は止まらない、チャレンジ精神を失うな。

 

当初、今回の探検の我々の目的は、南米アマゾンで異常発生している吸血コウモリの実態を調査、捕獲し、対策を練ることにあった。
吸血コウモリ自体には人を殺傷する力はないが、ひとたび発症すれば致死率が9割を超えるという恐ろしい狂犬病を媒介する厄介な存在。今年になって被害者は300人以上。さらに死者の数は13人にも及んだ。ブラジル衛生局の獣医師、エデル・ド・カルモ氏に同行し、調査を進めると、今回の異常発生には、人間が森林を伐採したため、吸血コウモリが行き場を無くして人里に下りてきてしまい、そのため、吸血コウモリの被害が急増してしまったのだ。ある村では、住民全員が度重なるコウモリの襲来に村を捨て、避難せざるを得ない状況に追い込まれ、村には人の姿は無く、無数のニワトリの死骸だけが残されていた。
我々はネットを張り、吸血コウモリを捕獲することにした。コウモリには群れの中でお互いに体をなめ合うという習性があることを利用して、現地では捕獲したコウモリの体に毒を塗って再び放すという対策がとられていた。我々もそれにならい、捕獲したコウモリを放した。しかし、人間を恐怖に陥れた吸血コウモリが人里に現れた原因を作ったのは、我々人間自身であった。
自然は豊かな恵みを我々に提供してくれるが、我々の欲望が度を越えてしまったら、自然は容赦なく我々に牙をむいてくるということを改めて思い知らされた。
吸血コウモリの被害も収束に向かおうとしていた最中、コーディネーターのマルコスにアマゾンの奥地で魚のような人間の姿をした未確認生物が目撃されたという連絡が入った。その情報を提供してくれたヴァルキマール氏は4種類もの新種のサルを発見した動物研究家である。彼の自宅でインディオの伝説にある半漁人イプピアーラと思われる未確認生物の映像を確認し、我々は探検の目的をイプピアーラの探索に転向し、再びアマゾンのジャングルへ向かった。
アマゾン最深部の街タバチンガで情報と装備を整え、船をチャーターし、アマゾンの本流の一つ、ソリモエス川から支流へと向かった。ヴァルキマール氏に目撃地点の入り口まで案内してもらい、我々はカヌーに乗り換え、目撃地点まで向かう事にした。目撃地点付近ではイプピアーラと思われる足跡と、無数の魚のウロコを発見する事が出来た。隊員たちは探索を開始して初めての手がかりに興奮し、浮き足立ってしまう場面 もあったが、気を取り直して情報を整理し、イプピアーラが潜んでいると思われる入り江を探索したが、残念ながら姿を捉えることは出来無かった。
そこで我々は、新たな情報を求めてチクーナ族というインディオが暮らすアリーダ村へ足を運んだ。そこでは古来から継承されている成人の儀式が行われていた。世界中を探検する中で、いつも驚かされるのは現地住民の独特の風習だ。世界中の部族達の成人の儀式は、日本の成人式とは違い、成人を迎える年齢は日本で言う中学生くらいの年齢の少年少女である。儀式は苦痛を伴うだけでなく、命の危険性もあるものが多い。彼らは、受動的に儀式を受けているのではなく、自発的に自らの意思で儀式を受けているようだ。厳しく過酷な大自然の中で生きる彼らは、生まれてから5歳まで成長することが難しいといわれている。生まれながらにして、宿命ともいえる最初の壁を乗り越えた彼らの次なる目標は、成人の儀式を越え、自立し、新しい自分の家族を築き、子孫を残していく事なのではないのだろうか。それゆえ、自ら厳しい試練に挑戦し、部族の伝統、文化、誇りを継承している。また、彼らの成長した姿を見守る村長をはじめ両親、家族の瞳には、優しく力強く、そして心から喜び、とても愛情に満ちた瞳をしていた。儀式を乗り越えた若者の瞳は、達成感と自身に満ち、力強く、未来に可能性を秘めた頼もしい瞳をしている。我々は彼らから新しい情報を得て、先に進む事にした。
ワニをイプピアーラと間違えたのではないかという可能性も捨て切れなかったが、検証してみると腑に落ちないところもあり、探索は続行された。ジャングルでの探索は厳しさを増し、途中隊員が底なし沼に飲まれたり、寝ている間にタランチュラが体に這い上がっていたり、また、アレルギーによる発疹が体中に出たりと、隊員の緊張も体力もピークに達し、限界に近づいているように感じた。
途中出会った別のインディオとは言葉が全く通じず、皆必死に全身を使い身振り手振りでコミュニケーションをとっていた。苦労したが、何とか情報を得ることに成功し、イプピアーラが潜んでいると思われる大小2つの入り江にたどり着くことができた。足跡を発見し、早速広い入り江にカメラを仕掛けた。翌朝、奥の狭い入り江に移動するイプピアーラらしき姿を捉えることに成功した。我々はイプピアーラを捕獲するため奥の入り江にネットを張った。広い入り江に戻る途中入り江の括れた部分が木でふさがれていた。つい先ほど通 った入り江の入り口が何者かによって木でふさがれているのだ。これは自然な倒木ではありえない状況だった。隊全体に緊張が走った。イプピアーラが近くにいるかも知れないと。それでも戻るためにはこの木をどかさないと通 れない。ビクともしない倒れた木にロープを巻きつけ、そのロープをカヌーの上から引っ張ることによって、行く手を阻む木を乗り越える事にした。これはイプピアーラの罠か?とすれば、隊員を危険に晒す訳にはいかない。水中では人間に勝ち目は無いと、私は水中の気配を全身で受け止めながら水に潜った。言うまでも無くアマゾンの河の水中にはピラニアやワニなど、危険な生物がいる。様々な事態に即対応できるよう危機センサーを張り巡らしながら、素早くロープを結びつけた。隊全体で引っ張り、何とか通 り抜けることが出来た。
その後、仕掛けたネットにより、イプピアーラを追い詰めた我々だが、想像以上の巨大な力にネットは裂かれ、足跡を追いかけた我々の眼前に広がったのは広大なアマゾン河であった。私は最後の手段として、水上飛行機に乗り、上空からその姿を探したが、地球の酸素の三分の一を供給しているといわる眼前に広がる緑の大地、巨大な湖の中で、見つけることは出来なかった。

今回、その姿を捉えることは出来なかったが、上空から広大なアマゾンを見たとき、
この大自然の中に、まだ我々が出会ったことの無い未知なる生物が存在していても不思議ではないと感じた。
人間がすべてを知ったように感じていても、まだまだ大自然の中では小さな存在なのかもしれない。
世界に未知なる出会いと発見、謎とロマンがある限り私の探検の旅はまだまだ続いていくのである。
                                                 合掌
                                                藤岡弘、


 

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